作品の基本情報
その恋、覚え無し
主催:劇団桟敷童子
作:サジキドウジ
演出:東憲司
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あらすじ
わたしは荒野で終焉の時をむかえている。
誰か寄り添ってくれる人はいるのだろうか?
誰かわたしを想ってくれる人はいるのだろうか?
殺風景な場所に孤独の風がつむじ巻く。
朦朧とした意識の中でわらべうたが聞こえてきた。
幼い頃に遊んだあの子を思い出す。
名前も知らない女の子だ。顔も思い出せない。
死ぬ間際にその子の顔を思い出そうと苦笑する。
曇天の向こうに、彼岸花が揺れている。
そして遠くに赤く燃える紅葉の群れ…。
凍てついた身体がぎくしゃくと動きだす。
あそこに行けば、あの子の顔が思い出せそうな気がした。
あの子の名前が思い出せそうな気がした。
いや、もしかしたらあの子は、
年を取らずそのままで、
あの紅葉の中で笑っているかもしれない。
きっと全裸で眩しくて、
秘めたる輝きに満ち…。
恋来来ら、夢来来ら…
公演日程・劇場
【日程】
2018年11月27日(火)〜12月9日(日)
【観劇日】
2018年12月8日(土) 18:00
【劇場】
すみだパークスタジオ倉
〒130-0003
東京都 墨田区横川1丁目1-10
キャスト(敬称略)
板垣桃子/ 原口健太郎 / 稲葉能敬 / 鈴木めぐみ
川原洋子 / 山本あさみ / もりちえ / 新井結香 / 大手忍
深津紀暁 / 升田茂 / 内野友満 / 柴田林太郎 / 三村晃弘
松本紀保 / 鳥越勇作 / 瀬戸純哉 / 石村みか
スタッフ(敬称略)
作:サジキドウジ
演出:東憲司
美術:塵芥
照明:Jimmy(㈱FREE WAY)
照明操作:北澤由佳(㈱FREE WAY)
作曲:川崎貴人
劇中歌作曲:もりちえ
チラシ画:梶村ともみ
チラシデザイン:山田武
舞台監督:深津紀暁
感想
劇団山本屋でもおなじみの板垣桃子さんが所属している劇団桟敷童子。
こちらも一度観たいと思っていた劇団さんでした。
最近みる舞台は美術に惹き込まれるものが多かったですが、今回はなんと下に本水を張って、上からも降らせるという大掛かりなものでした。
本水の迫力とラストシーンの紅葉
先に何度か触れましたが本水を下に張り、上からも振らせて嵐の豪雨を表現していました。
生音での水音、さらに水の匂いも仄かに漂うので、リアリティが凄かったです。
それだけでも大迫力ですが、最後の最後でバックの幕が落ち、燃えるような紅葉が広がった瞬間は鳥肌が立ちました。
網膜を殴りつけてくるかのような鮮やかな紅葉と、それを前に立つ神目の三人は盲目のため、その光景は見えていないというギャップが心を締め付けます。
カイの存在感と板垣さんの技術
キャラクターの強さという意味でもやはり記憶に残りやすく、印象深いのは神目の一人である、板垣桃子さん演じるカイでした。
豪快で終始好きなキャラクターでしたが、特に凄かったのが、佐七との最後の別れのシーンです。
叶うことのない約束を交わし、去りゆく佐七を見ながら静かに目に涙を溜めるのですが、客席から見てもわかるレベルで目を潤ませつつ、決して流すことはしない細やかな技術に脱帽でした。
その直後ウタに対してはいつも通り気丈に振る舞う姿も、さすがは板垣さんと思わせる切り替えでした。
劇団山本屋でもそうですが、板垣さんが演じる役は基本的に芯の強い役が多いので、涙を流しそうになりながらも堪える姿は、見ているこちらも涙を誘われてしまいます。
猪熊先生という心の拠り所
原口健太郎さん演じる医者の猪熊先生は、観ているこちらも頼りにしたくなるような、そんな安心感がありました。
外科・内科としても勿論ですが、言葉1つ1つに説得力があるため、ある種精神科に近い役割も担っているように思えました。
本人にそのつもりはないようですが、冗談まじりに力強く温かい言葉をくれるそのスタイルが、医者としてではなく『猪熊甚五郎』個人として真剣に向き合ってくれているように思えて、集落の人たちの心の拠り所になっている所以なのかなと感じました。
最後に
少し民俗的な雰囲気で、最初はちゃんと話が追えるか不安でしたが、全くその心配はなく、内容はいたってシンプルなものでわかりやすかったです。
それもあって、それぞれの登場人物の想いまで深掘りして見ることができたのかな、と。
是非また観てみたいと思わせる内容でした。